ハーブとの出会い #2

植物の世界に入ったのは、農学部出身であったことがきっかけでした。 

そして、当たり前のように花卉(いわゆる花)を専攻していた私は、

授業と所属した研究室で育てた植物の成長の過程を身近で感じながら、

開花、結実、収穫など、より詳しく植物に触れていきました。

たまたまではあったその環境は、とても私にはしっくりとくるものでした。

 いつしか、植物のない生活が考えられないくらいになっていたのです。 


 植物がそばにあるのが当たり前と感じるようになっており、 

就職先もおのずと園芸業界を目指すこととなりました。 


 初めて就職した会社は横浜のはずれのとある小さな園芸会社でした。 

私の配属部署は小売生花店に卸す植物を管理と販売をする卸部。 

 朝早くからお花屋さんが買い付けに来ます。 

要するに仲卸しのお仕事だ。 

フラワーコンテナ(通称フラコン)を車のついた荷台へとひたすら上げ下ろす作業。 

炎天下、麦わら帽子とオーバーオール姿で真っ黒に日焼けをし、 汗だくになりながら

灌水と花柄や枯れ葉を取り除くという作業の繰り返し。 

二十歳そこそこの女性がする仕事としてはかなりハードだったと今でも思いだされます。


 そんな暑い夏の過酷な卸部の仕事での一番の楽しみは、 スタッフが一斉にとるお茶休憩の時間でした。  

7時半に始業し、10時(ちょっと一服)、12時(ランチ)、15時(おやつ付き) 

そして、18時(退勤までの最後の休憩)の計4回。 

 他の小売物販部では不可能なことで、卸部の伝統でもあり、 

老若男女の卸部だけのちょっとおなしな、 でも社会の縮図のような、初めは不思議な時間でした。 


 その卸部には長老が居ました。 ハイカラでちょっとエッチなその長老に、よく追っかけられてお尻をタッチれたものです。 

 その長老を囲んで飲む、渋くて熱~い玉露がものすごく美味しかったこと。 

玉露も結構な高級品で、長老のこだわりの銘柄だったと思われます。 

 湯呑みはそれぞれお気に入りを持ちよります。

 時には美味しいお菓子つきで、いつもその玉露を先輩が淹れてくれ、

私もその淹れ方(煎茶よりぬるめに淹れるなど)を学んだものでした。 


 長老:「おい、〇〇(確か下の名前呼び捨て)!暑い夏こそ熱いお茶だぞ。 喉の渇きは冷たいもんじゃ逆効果なんだ。 しかもこの渋みが身体にいいんじゃよ。 身体の熱をとるからな。」

 私 :「えーっ、こんなに暑いのに熱いもの飲むの? 熱なんかとれるわけないじゃ~ん!」

 長老:「この、ぶぁ~かもん。そんなことも知らんで植物売っとるんかぃ! じゃぱに~ずてぃ~じゃ。てぃ~なんだから熱くなくてどうする。 騙されたと思って飲んでみろ、バーロゥ!」

 (口は悪いけど音はいい人でした) 

 私 :「えぇ~~(´0ノ`*)」 

 …数分しても やっぱり熱くて耐えられない! 「じっちゃんの嘘つきー……んっ!?」

 言おうとしたら、 だんだんと心身がクールダウンしてきたではありませんか。汗も引いてきた。 


 私 :「じっちゃん!すごいよ、じっちゃんの言う通りだったよ~!」 

 長老:「だから言ったろうが、っバーロー! 大学で何をやっとんたんじゃいっっ!」 


 …結局どちらにしても怒鳴られます。ヽ(;´ω`)ノ 

 しかし、あの感動的なのどの渇きの引く感覚と心地よさは今でも忘れられません。 


 あの頃の私は無知でした。 見るもの聞くもの全てが新鮮。で、いつもいつも怒鳴られていたけれど、それは叱られていたのではなく、むしろ可愛がり親切心で大切に育ててくれていたのです。 

それはそれは、植物を愛でるような優しい心で。


 じっちゃんは口を開けば 「植物を見てみろ、動けないけど奴らはこんなに健気に生きている。 お前ら、そんなことでへこたれんな、負けてられねえぞ。」 っといつも言っていたっけ。 

 そして…いつしかこのお茶休憩が私にとって 単なる水分補給だけではなくなっていたのは言うまでもありません。 

 それ以来、緑茶に限らず夏こそ熱いものを極力飲むようになりました。


 じっちゃんは私の在職中から心臓が悪く、入退院を繰り返し、私が退職後間もなく亡くなりました。 

 私は駆けつけられませんでしたが、立派な葬儀だったそうです。 


 っと、少し話題は反れましたが、 お茶の飲み方、そしてお茶をする時間の愉しみかた。 

そしてそれらが、心身に大いに関わることをこの会社で学んだのでした。


ちょっと大袈裟かな? 

 そして、多くの植物に触れつつ「植物のいろは」を教わったのもこの会社。 

 やはり花は、いえ植物は、根っこのある状態を知ってこそ。 

 入荷のときから根っこを刈り取られた切り花を、束ねたりアレンジするだけの

きれいな仕事から入っていたら、大切なことをすっ飛ばして長い間気づけずにきていただろう。


 きっと、園芸業界での植物への心構えがきっと全然違っていたと思うのです。 

 長老のじっちゃんをはじめ、卸部の皆様に感謝です。

そんな気持ちを込めて今日は濃いめの緑茶をいただきます。

玉露ではないけど… ちなみに湯呑みは当時使っていたものです。 


 …つづく…                           

                               2013/10/18 アメブロより再投稿

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