「デザート」も「おやつ」も、実は姿を変え続けてきた
――食文化の"常識"は、時代とともに書き換えられる
「食後のデザートって、イギリスのアフタヌーンティーが起源なんでしょう?」
そう思っている方は、実は少なくありません。
しかし調べてみると、この二つはまったく別の歴史を
歩んできた文化だということがわかります。
今回は、身近な「甘いもの」の歴史をたどりながら、
概念や言葉が時代とともにどう姿を変えてきたかを見ていきたいと思います。
デザートの起源はフランス、あるいは古代ローマ 「デザート」という言葉は、
フランス語の "desservir"(食卓を片付ける)に由来します。
中世〜近世フランスの宮廷料理において、
メインの皿を下げたあとに果物やナッツ、
砂糖菓子を出す「食後の一皿」という発想が確立し、
それが英語の "dessert" として定着しました。
さらに遡れば、古代ローマの饗宴にも "secunda mensa"(第二の食卓)と呼ばれる、
主菜のあとに蜂蜜菓子や果物を並べる習慣がありました。
「食事の締めくくりに甘いものを」という発想そのものは、
驚くほど古くからあったのです。
アフタヌーンティーは「デザート」ではなく、
まったく別の発明だった 一方、
イギリスのアフタヌーンティーは19世紀、1840年代に
ベッドフォード公爵夫人アンナが考案したとされています。
当時のイギリスは夕食(ディナー)の時間が遅く、
昼食からディナーまでの空腹をしのぐために、
昼と夜の間に独立して設けられた軽食の時間として誕生しました。
つまりこれは「食事の最後に甘いものを出す」文化ではなく、
「食事と食事の"間"に、お茶とお菓子だけの新しい食事機会を挟み込む」という、
まったく別の発想から生まれたものです。
「食後に甘いものを」はフランス(遡ればローマ)発、
「お茶の時間に菓子を」はイギリス発。
似ているようで、生まれた文脈がまったく異なる二つの文化が、
いつしか私たちの中で一つのイメージに混ざり合ってしまったのですね。
日本の「おやつ」も、もとは"3時"限定ではなかった
では日本の「おやつ」はどうでしょうか。
江戸時代、庶民の食事は基本的に1日2食でした。
労働の合間の空腹を満たすため、干支による時刻の呼び方で
「八つ時(現在の14〜16時ごろ)」に取る軽い間食を
「お八つ」と呼んだのが語源です。
これは農作業に限った習慣ではなく、職人や商人など、
身体を動かして働く人々全般に広がっていました。
そして江戸中期以降、1日3食の食習慣が定着していく過程で、
「おやつ」は次第に「14〜16時」という時刻の縛りを離れ、
「間食」全般を指す言葉へと意味を広げていきます。
私たちが何気なく使う「3時のおやつ」という言葉は、
こうして薄れながらも残った"八つ時"の記憶なのです。
インドのアーユルヴェーダも、同じ時間帯にたどり着いていた
ここでもう一つ、興味深い視点を加えたいと思います。
5000年以上の歴史を持つインドの伝統医学・アーユルヴェーダでは
1日を3つの体質エネルギー(ドーシャ)の時間帯に分けて考えます。
6〜10時:カパの時間(消化力が弱いので朝食は軽く)
10〜14時:ピッタの時間(消化力が最も高まるのでしっかり食べる)
14〜18時:ヴァータの時間(感覚が鋭くなり、疲れも出やすい時間帯)
そしてこのヴァータの時間には、
無理をせず、温かいお茶や甘みのあるもので一息入れて
身体と心を休めることが推奨されています。
お気づきの通り、
これはイギリスのアフタヌーンティー(14〜17時ごろ)や、
日本の八つ時のおやつ(14〜16時)と、
時間帯がほぼぴったり重なります。
もちろん、アーユルヴェーダの理論が根付いたインドの食習慣が
大航海時代にイギリスの宮廷に伝わったのかもしれませんし
江戸の庶民生活は縄文時代から伝わる生活習慣や食文化の集大成でもあります。
系統も宗教も社会階層もまったく異なる3つの文化が、
示し合わせたわけでもないのに、同じ時間帯に同じ答え
――「甘いものと休息」――にたどり着いたということです。
これはおそらく、
昼食後から夕方にかけて眠気や集中力の低下が訪れるという、
人間の生理(いわゆる「ポストランチディップ」や概日リズムの働き)に根ざした、
文化を超えた普遍的な知恵だったのかもしれません。
アーユルヴェーダはそれを体系的な理論として
言語化していた、という一例に過ぎませんが、
イギリスも日本も、それぞれ独自の経験則として同じ結論にたどり着いていたわけです。
概念は、使われながら形を変えていく
デザートも、おやつも、最初からいまの意味だったわけではありません。
デザート:「食卓を片付ける」という所作
→ 「食後に出す甘い一皿」という料理の型
おやつ:「八つ時の労働者の間食」という時刻指定の習慣
→ 「いつでも食べる軽い間食」という広い概念
言葉や文化は、生まれた瞬間の意味のまま止まっているわけではなく、
使われ、伝えられていく中で少しずつ輪郭を変えていきます。
そして時には、まったく異なる場所で生まれた文化同士が、
伝わり合ったわけでもないのに、人間の中にあり本来の知性がうずき
驚くほど似た答えにたどり着くこともあります。
何気なく口にしている「デザート」や「おやつ」も、
何百年、何千年をかけて姿を変え、
あるいは遠く離れた場所で独自に育ってきた"生きた文化"なのだと思うと、
次に食べる一口が、少し違って見えてくるかもしれませんね。
さて、あなたはおやつをどんな認識で食べていましたか?
同じ疲労緩和のためのおやつタイムにもそれぞれあって
農作業をする肉体労働と、頭脳を使うビジネスパーソンでは
食べるものやそれが体内で働く糖の種類によって全く変わるかもしれません。
いずれにしても運動量が現代人は昔の人々に比べて変わってきているので
量も質も気をつける点がありそうですね。
0コメント